保育園を立ち上げた話【その3】

園舎探しの不動産屋まわりが始まった。


いくつも物件を見て回った。みんな働く親ばかりだから、送迎できる範囲にも制限がある。子供たちが出入りする時の安全、車がびゅんびゅん通るような所はまず駄目。
全員でご飯を食べたり、マット運動(毎朝、身体の緊張をほぐす為の運動があって、1?位の円筒をぐるりとマットで巻いたものがある)のスペースやお昼寝をする為の布団を敷くスペース、贅沢はいえないが、申請をするために、最低限満たさなくてはならない条件もある。


あと、近隣の家とあまりに接近していると、子供たちの声がうるさいと苦情がきたりもする。いざ始めたは良いけど、近隣住民の苦情で引越しをしたという保育園の話も聞いた事がある。実際、子供に静かにしなさいと言いながらの保育なんて子供に良い訳がない。


全てを満たす家はなかなか見つからない。このまま四月になっても見つからなかったら、どうする?
どこかの公園に送って行って、弁当持ちで青空保育だって仕方ないかも…と考えた。
ため息ばかりがつづいた、ある日、ひょっこり、本当にひょっこりって感じで、我が家から、歩いて5分位の場所で一軒家が貸しに出た。
金融関係の会社が持つ抵当物件だった。
いつまで借りられるかわからないが、とりあえず訪ねてみた。


こんな所にこんな家があったの?!古い木造の二階建て。入ってみると、前に住んでいた人が慌てて引越したような跡、酷い状態だったけど、私たちの条件もほぼ満たされているし、手を入れれば使えそう。ねずちゃんもおばけも住んでそうな汚い古い家だったけど、私たちには光り輝いて見えたんだあ。


『ここから新しい保育園が始まる!』


あの日の嬉しさ。泣きそうなほど嬉しい仲間の顔。思い出せるよ、はっきりと。
私たちはこれから始まる保育園が夢と希望でみち溢れているように思えた。確かにあの時は…。
次回につづく


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